
相続時精算課税制度を検討している方は、「暦年贈与とどっちが得なのか」「後から損をしないか」などの不安があるのではないでしょうか。
相続時精算課税制度は、60歳以上の親や祖父母から子や孫へ、生前に財産を贈与し、最終的な税金の精算は相続のタイミングで行うという仕組みです。
令和5年度の税制改正以降は年間110万円の基礎控除が設けられ、従来より使いやすくなった一方、見逃しやすいデメリットや注意点もあります。
この記事では、相続時精算課税制度の基本的な仕組み、適用条件、メリットとデメリット、向いている人の特徴について詳しく紹介します。
相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度は、通常の暦年課税とは税金の計算方法や将来の相続への影響が大きく異なる仕組みです。ここでは、制度の基本的な仕組みや創設された背景について詳しく解説します。
相続時精算課税制度の基本的な仕組み
相続時精算課税制度は、親や祖父母から子や孫への生前贈与について、贈与時点では大きな非課税枠を設け、最終的な税額を相続時に一括して精算するという仕組みです。
具体的には、受贈者は累計2,500万円まで贈与税がかからずに財産を受け取ることができ、特別控除枠を超えた部分も一律20%というシンプルな税率が適用されます。
また、令和5年度の税制改正以降は年間110万円までの基礎控除が認められ、この範囲については相続時に相続財産へ加算されないため、少額贈与も組み合わせやすくなっています。
制度が創設された背景と目的
相続時精算課税制度が導入された背景には、高齢化の進展により資産の多くが高齢世代に滞留し、子や孫世代に資金が行き渡るタイミングが遅れていたという問題があります。
同時に、従来の贈与税は暦年課税が中心のため、コツコツ長年贈与した人と相続直前に多額を贈与した人で税負担に不公平が生じるという指摘もありました。
こうした課題を踏まえ、平成15年の税制改正で創設された相続時精算課税制度は、資産移転の時期で不公平が生じないよう、税制上の中立性確保を狙っています。
高齢者が保有する金融資産や不動産を早めに次世代へ移転できれば、住宅取得や教育資金、事業資金などに活用され、家計や企業の支出を通じて経済全体の活性化につながると期待されています。
相続時精算課税制度の適用条件

相続時精算課税制度は、誰でも自由に選べるわけではありません。ここでは、適用条件と制度が使えないケースについて詳しく解説します。
贈与者と受贈者の年齢や関係
相続時精算課税制度は、贈与者と受贈者それぞれで適用条件があります。
贈与者は、原則として贈与年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母などに限られ、兄弟姉妹や伯叔父母などからの贈与ではこの制度を選択できません。
一方、受贈者は贈与年の1月1日時点で18歳以上の直系卑属(子や孫)で、かつ贈与者の推定相続人または孫であることが求められます。
年齢要件は民法の成年年齢引き下げに合わせて見直されており、2022年3月31日以前は20歳以上とされていましたが、現在は18歳以上に緩和されています。
制度の選択は、贈与者と受贈者それぞれで行う仕組みであり、例えば父から長男へは相続時精算課税、長女へは暦年課税のままといった組み合わせも可能です。
適用できる財産の範囲
相続時精算課税制度の対象となる財産は、原則ほとんどの資産を対象にできます。
現金や預貯金はもちろん、土地や建物などの不動産、株式や投資信託などの有価証券、自社株などの事業用資産も、関係や年齢の要件を満たしていれば制度の対象となります。
また、贈与の回数や金額にも上限はなく、累計で2,500万円までの特別控除の枠内であれば、何回に分けて贈与しても贈与税はかかりません。
ただし、別の優遇措置と併用する場合には、それぞれの適用要件や上限額、申告の手続きが複雑になりやすいため、どの制度を優先して使うかは整理しておくことが重要です。
制度選択が認められないケース
相続時精算課税制度は、制度の選択自体が認められないことがあります。
例えば、贈与者が60歳未満、受贈者が18歳未満、直系卑属以外の親族への贈与など、年齢要件や続柄の条件を満たさない組み合わせで贈与が行われた場合です。
さらに、相続時精算課税選択届出書と贈与税の申告書を期限内に提出していないと、原則としてその年の贈与には制度が適用されず、暦年課税として扱われてしまいます。
また、受贈者本人が届出書を提出する前に死亡した場合、贈与者が代わりに届出を行うことは認められていません。(受贈者の相続人が承継して届出を行うことはできます)
相続時精算課税制度の利用を検討する際は、事前に専門家へ相談し、スケジュールと必要書類を具体的に確認しておくことが重要です。
相続時精算課税制度の非課税枠と税額計算

相続時精算課税制度を上手に活用するには、いくらまでなら税金がかからないか、超えた部分はどのように課税されるのかなどを詳しく把握しておくことが重要です。
ここでは、非課税枠の考え方や相続発生時の具体的な精算の流れについて詳しく解説します。
特別控除2,500万円の考え方
相続時精算課税制度は、特定の贈与者から累計2,500万円までは贈与税がかからない特別控除です。
2,500万円は生涯を通じた累計額であり、複数年に分けて贈与を行った場合でも、同じ贈与者からの贈与については合計額が達するまで贈与税は発生しません。
また、贈与者ごとに管理されるため、例えば父と母の両方から相続時精算課税を選択すれば、それぞれ2,500万円ずつ、合計5,000万円まで非課税枠を利用できます。
さらに、年間110万円の基礎控除が新設されたことで、まず基礎控除で非課税となる部分を差し引いたうえで、残る金額について特別控除が適用されるという順番になります。
早い段階から計画的に贈与を続ければ、基礎控除と特別控除をフルに使い切り、多くのメリットを受けることが可能です。
一律20%課税の仕組み
相続時精算課税制度では、特別控除2,500万円と年間110万円の基礎控除を差し引いて残る部分については、贈与時点で一律20%の税率で贈与税が課されます。
一般的な暦年課税では、贈与額に応じて最大55%の累進税率が適用されますが、相続時精算課税では金額にかかわらず20%に固定されるという仕組みです。
ただし、この20%で支払った贈与税は、あくまで将来の相続税の前払いの位置づけであり、贈与の時点で最終的な税負担が確定するわけではありません。
贈与時にある程度まとまった税金を前払いし、相続時に全体の税額を再計算して過不足を精算する仕組みと理解しておきましょう。
相続時に税額が精算される流れ
相続時精算課税制度は、相続が発生したタイミングで相続税と贈与税をまとめて精算します。
贈与者が亡くなったときは相続財産の評価を行いますが、この際、相続時精算課税の適用を受けた贈与財産は、贈与時の価額で相続財産に加算されます。
そのうえで、加算後の課税価格をもとに相続税額を計算し、これまでに支払った相続時精算課税分の贈与税額を控除することで、最終的な相続税の納付額を確定させる仕組みです。
相続税額が贈与税の合計額より多ければ差額分を追加で納税し、少なければ超過分が還付されるため、本来負担すべき税額に落ち着くよう調整されます。
相続時精算課税制度のメリット

相続時精算課税制度のメリットを把握しておけば、本当に有利なタイミングや財産の種類を選びやすくなります。ここでは、主なメリットについて詳しく解説します。
高額な財産を早期に移転できる
相続時精算課税制度には、高額な財産を比較的早い段階で子や孫に移転できるメリットがあります。
暦年贈与では年間110万円を超えると贈与税率が段階的に上がっていきますが、この制度では税率は一定のため、生前贈与の計画を立てやすくなります。
また、大きな金額を贈与税なしで渡せるため、子世代は住宅購入の頭金や事業資金、教育費などライフイベントに合わせた資金需要に柔軟に対応できます。
親が亡くなるまで資金が動かないという状態を避けられ、親世代の資産を必要なタイミングで次の世代に振り向けることで、家族全体の生活設計の自由度向上につながります。
相続財産を事前に圧縮できるケースがある
相続時精算課税制度では、相続財産そのものの評価額を事前に圧縮できる可能性があります。
例えば、賃貸物件や自社株など、将来の収益や配当を生む資産を早めに移しておくと、その後に生じる家賃収入や配当金は子のものとして課税されるため、親の相続財産は増えません。
相続税は累進課税であり、財産総額が大きいほど税率が上がるため、生前に一定のラインまで財産を分散させておけば、親の遺産総額を抑えられる可能性があります。
もちろん必ず相続税が減るわけではありませんが、どの資産をどの時期に移すかを決めることで、税負担をコントロールしやすくなる点は大きなメリットです。
将来値上がりする財産を先に渡せる
将来値上がりが見込まれる財産は、相続時精算課税制度を使い早めに贈与することで、相続時の課税ベースを抑えられる可能性が高くなります。
例えば、再開発エリアの土地や事業成長が期待される自社株などを移しておけば、相続の際は上昇後の価格ではなく、贈与当時の価格を基準に税額を計算できます。
ただし、実際の評価額は相続時の税務上の評価方法に従って決まるため、どの程度の値上がりが想定されるかは明確には分かりません。また、遺留分侵害額の算定は、相続開始時の時価が基準となることにも注意が必要です。
贈与のタイミングをいつにするのかについては、将来の相続税負担や家族のライフプランも含めて慎重に検討することが重要です。
相続時精算課税制度のデメリット・注意点

相続時精算課税制度は上手に使えばメリットも大きい一方、後戻りできない仕組みや思ったより節税にならないなど、落とし穴も多い制度です。
ここでは、主なデメリットについて詳しく解説します。
一度選択すると暦年課税に戻れない
相続時精算課税制度は一度選択すると、同じ贈与者と受贈者の組み合わせについては暦年課税に戻すことができません。
選択届出書と贈与税申告書を提出した時点で、贈与は原則としてすべて相続時精算課税扱いとなり、暦年課税の非課税枠だけの単独使用は不可能です。
継続適用のルールを知らずに、目先の贈与税を抑えたい一心で制度を選ぶと、後年に悔やむケースも十分に想定されます。
選択の取り消しは原則認められていないため、贈与する金額・頻度・将来の相続財産の規模などを具体的にシミュレーションしたうえで選択することが重要です。
相続税の基礎控除が別枠で増えるわけではない
相続時精算課税を選択しても、相続税の基礎控除が上乗せされるわけではありません。
制度の利用を検討している方のなかには、「生前に移しておけば、相続税の課税対象が減って基礎控除内に収まるのでは」と期待する方もいますが、これは誤りです。
相続が発生した際、相続時精算課税の対象となった贈与財産の価額は、相続財産に持ち戻して合算したうえで相続税の課税価格を計算します。
生前に多額の贈与をしていても、贈与分を含めた全体の財産を前提に税額が決まる仕組みのため、生前に渡した分は切り離されるというイメージは成り立ちません。
基礎控除を超えるかどうかは、生前贈与の有無にかかわらずほぼ同じ水準で判断されるため、制度の仕組みを正しく理解したうえで検討しましょう。
少額・分割贈与では煩雑になりやすい
相続時精算課税制度は、令和6年(2024年)の税制改正によって「年間110万円の基礎控除(申告不要・相続時の持ち戻し加算不要)」が新設されたため、少額の生前贈与においても非常に使い勝手が良くなりました。
しかし、注意しなければならないのは、「一度この制度を選ぶと、途中で撤回して暦年課税に戻すことができない」という点です。
例えば、将来的に「他の贈与者(別の人)からの贈与との兼ね合いで暦年課税の非課税枠を使いたくなった」といった場合でも変更はできません。また、年間110万円を超える贈与を行った年については、その都度、税務署への申告手続きが必要となります。
「目先の高額贈与のために安易に選択してしまい、将来の贈与プランの柔軟性を失ってしまう」というリスクがあるため、長期的・継続的な資産移転の全体像を描いたうえで選択することが重要です。
相続時精算課税制度が向いている人の特徴

相続時精算課税制度は、誰にとっても万能なわけではなく、条件が合う人に特に大きな効果を発揮する制度です。主に以下の特徴に当てはまる人が適しています。
- 数百万円~数千万円規模の高額資金を早めに渡したい人
- 今すぐ大きな資金ニーズがある子や孫を支援したい人
- 値上がりが見込まれる土地や自社株を評価額が低いうちに移転したい人
- 生前から計画的に承継を進めたい経営者や不動産オーナー
- 特定の子や孫に後継者として早めに資産を集中させたい人
- 今後も継続的に多額の贈与を行う予定で年間110万円の枠では足りない人
例えば、住宅購入の頭金として数千万円単位の資金援助をしたいケースや、子が起業する際の事業資金を一括で支援したいケースなどでは、この制度が有力な選択肢になります。
また、相続財産の総額がもともと相続税の基礎控除額の範囲内に収まる見込みで、生前から計画的に財産を分けておきたいと考える人も恩恵を受けやすいです。
一方、毎年少額ずつの贈与で十分な人や、将来の贈与計画が固まっていない場合は、暦年課税だけで足りるケースも多いため、冷静に自分が制度に向いているかを確認してみましょう。
まとめ
相続時精算課税制度は、生前にまとまった財産を子や孫へ早期に移転しつつ、最終的な税負担を相続時に調整できる仕組みです。
ただし、選択すると暦年課税に戻れないことや、相続税の基礎控除が増えるわけではないなど、見落とすと不利になりかねない注意点も多くあります。
自分のケースではどちらの贈与方法が有利なのか迷ったときは、相続・生前贈与の相談実績が豊富な『札幌パシフィック法律事務所』にご相談ください。
専門家の視点から、個別の状況に応じた選択肢について検討することが可能です。ぜひこの機会に、お気軽にお問い合わせください。
監修者情報
弁護士法人札幌パシフィック法律事務所
代表 佐々木 光嗣 平成25年札幌弁護士会登録
経歴
- 昭和54年 11月12日生まれ
- 平成10年 北海道札幌北高等学校 卒業
- 平成14年 北海道大学法学部 卒業
- 平成16年 北海道大学法学部法学研究科修士課程 修了
- 平成22年 北海道大学法科大学院 修了(法務博士)
- 平成23年 司法試験合格
- 平成24年 弁護士登録(東京弁護士会 弁護士法人アディーレ法律事務所)
- 平成25年 札幌弁護士会に登録替え
- 平成28年 小畑法律事務所 入所
- 平成30年 札幌パシフィック法律事務所設立
- 令和3年 弁護士法人札幌パシフィック法律事務所設立(法人化)
- 令和6年 税理士業務開始(通知税理士)
メディア掲載・出演歴
- 平成28年12月 財界さっぽろ
- 平成29年03月 HBC「今日ドキッ!」
- 平成29年09月 HBC「今日ドキッ!」
- 平成29年12月 財界さっぽろ
- 令和4年9月 月刊Masters
- 令和5年3月 北海道相続レンジャーセミナー講師
